近年市場で注目を浴びている、工場で人工的に生成されたダイヤモンド「ラボグロウンダイヤモンド」。このダイヤが、これまでの人工ダイヤモンドとなにが違い、今後どのような可能性を秘めているかを解説します。

ラボグロウンダイヤモンドは天然ダイヤモンドと同質

ラボグロウンダイヤモンドは人工ダイヤモンドの一種と捉えられがちです。しかし、天然のダイヤモンドと同じく、純粋に炭素のみで組成されているため、本質的には天然のダイヤと同じといえます。
地中から採掘された天然ダイヤモンドとラボグロウンダイヤモンドは、科学的・物理的・光学的に同じ性質を持っており、ただ生成された環境のみが違います。つまり、鉱山で膨大な年月をかけてできたのか、研究所でできたのかという点に違いがあるだけです。
天然ダイヤと同質であるラボグロウンダイヤモンドですが、人工ダイヤとの違いとなるとどうでしょうか。

 

人工ダイヤとの違い1.元素や生成プロセスの違い

人工ダイヤとの違い1.元素や生成プロセスの違い素人ではダイヤモンドと見分けがつきにくく、屈折率も硬度もダイヤモンドにかなり近い人工石として、キュービックジルコニアがあります。ダイヤモンドの模造品として使われることも多く、お手頃価格できれいに見えるということで人気があるのは事実です。しかし宝石の王様であるダイヤモンドとは本質的に違い、市場価値は雲泥の差があります。
純粋な炭素のみで生成される天然ダイヤモンド違い、ダイヤモンドのイミテーションであるキュービックジルコニアは炭素でできているわけではありません。「安定化等軸晶系ジルコニア」というのが正式名称であり、酸化ジルコニウムから作られています。素材も生成過程もダイヤモンドとは全く異なっているのです。
一方ラボグロウンダイヤモンドは、天然物と同じく炭素からできています。自然が生み出した環境下で膨大な時間をかけて生成されたのか、研究所で作りだされた環境の中で生成されたかの違いはありますが、本質的に同じ物質なのです。
ラボグロウンダイヤモンドには2つの生成方法があり、それぞれで異なるダイヤが作り出されます。

 

球体型のラボグロウンダイヤを作るHPTH法

HPHT法という名称は「High Pressure, High Temperature(高温、高圧)」の頭文字からとられたもので、素材となる炭素に非常に高い圧力をかけて生成する方法です。特殊なカプセルの中に出発材料であるダイヤモンド粉末を入れた後、溶融金属フラックス中に溶解させ、種結晶の上でダイヤモンドがさらに結晶化していきます。
装置のカプセル内に、天然ダイヤモンドが生まれたのと同じ地球内部の環境を再現するわけです。
HPTH法では、球体型のラボグロウンダイヤモンドが作られます。ほとんどの場合、成長したダイヤモンド結晶は黄色になります。オレンジがかった黄色になったり、茶色がかった黄色になったりする場合もあります。底面は平らで、八面対面と六面対面を組み合わせた形となります。

 

さまざまなカラーダイヤが作れるCVD法

CVD法とは、「Chemical Vapor Deposition (化学蒸着)」の頭文字から取られています。この方法は別名LPHT法とも呼ばれますが、LPHTとは「Low Pressure,High Temperature」の頭文字からきていて、低圧・高温という意味があります。
CVD法で作られるラボグロウンダイヤモンドは、メタンなどの炭素含有ガスが充満した真空チャンバー内で生成されます。この中にマイクロ波ビームのようなエネルギーを照射することで、ガスに含まれる炭素原子があらかじめ設置されたダイヤモンドの種結晶プレートに引き寄せられていき、結晶化していきます。ほとんどのCVDダイヤモンドの色は、無色の結晶、もしくは褐色か灰色かかっています。しかし窒素やホウ素を微量注入して生成することにより、黄色やピンクがかったオレンジ色、青色などの結晶も作ることができます。形は薄い形状のものができるのも特徴です。
このようにラボグロウンダイヤモンドは、イミテーションダイヤモンドとは違い、天然ダイヤモンドと同じプロセスをラボ(研究所)内で再現して作られるため、従来の人工ダイヤモンドとは似て非なるものと言えるでしょう。

 

人工ダイヤとの違い2.同じ安価でも市場に与える影響が違う

人工ダイヤとの違い2.同じ安価でも市場に与える影響が違うキュービックジルコニアをはじめとした模造ダイヤモンドも、ラボグロウンダイヤモンドも、天然ダイヤモンドと比べると安価です。やはり地中奥深くで作られた天然物は希少性が高く、その価格はずば抜けています
人工ダイヤモンドも、ラボグロウンダイヤモンドも、高価な天然ダイヤモンドには手が出せない一般消費者に喜ばれるアクセサリーとして、一定の役割を果たしています。どちらも見た目は天然ダイヤモンドに近いため、宝飾品としてそれなりの人気があるのです。
しかし、大量生産されて安価なキュービックジルコニアは幾ら宝飾市場に流れても、ダイヤモンド市場にはさして影響を与えません。しかしラボグロウンダイヤモンドの場合は生成にそれなりの費用と時間がかかるため、大量生産できるわけではありません。また、模造品ではなくまぎれもないダイヤモンドであるため、天然物を含むダイヤモンド市場にも影響を及ぼしています。
天然ダイヤモンドと比べて価格が半分のキュービックジルコニアを購入することは、ダイヤモンドの代わりに別の似た宝石を買うことになります。しかし天然ダイヤモンドと比べて半分の価格のラボグロウンダイヤモンドを購入することは、生成プロセスが違うだけの本物のダイヤモンドを買うことになるのです。いわば天然物の鯛を食べるか、養殖物の鯛を食べるかのような違いです。ラボグロウンダイヤモンドは、「ダイヤモンドが欲しい」と願う人の気持ちを比較的安価な出費で満足させるため、天然ダイヤモンドの需要を下げ得る宝石なのです。

 

天然ダイヤモンドの価値下落の一因とも言われている

近い将来、天然ダイヤモンドの価格は大幅に下落する恐れがあると言われています。その原因は様々ありますが、ラボグロウンダイヤモンドの普及もその一つです。真珠は養殖技術の普及により、天然ものを探すよりも美しい養殖真珠を求める人が多くなり、真珠業界は大きく変化しました。ダイヤモンドも同じ流れになるのではないかと言われているのです。このようなポテンシャルは、従来の人工ダイヤモンドにはないものです。

 

人工ダイヤとの違い3.ラボグロウンダイヤモンドは、天然ダイヤモンドに付き物だった問題を解決できる

人工ダイヤとの違い3.ラボグロウンダイヤモンドは、天然ダイヤモンドに付き物だった問題を解決できる天然ダイヤモンドの需要が落ちていくのではないかと言われている原因は他にもあります。環境問題を引き起こすこと、国によっては密輸が横行していること、ダイヤモンドをめぐる紛争を引き起こすことなどです。
そのような問題の原因が天然ダイヤモンドであるならば、購入しないことでダイヤモンドの需要を下げるのが人道的に良いことなのではないかという意見があります。確かに天然ダイヤモンドにはそのようなマイナスの影響があることは確かであり、ラボグロウンダイヤモンドはそれらの問題を解決し得る力があります。これも従来の人工ダイヤモンドとの違いであると言えます。
たとえば天然ダイヤモンドは、産出国の土壌や水資源の破壊を引き起こしています。埋蔵量に限りがあるため、年々採掘量が減少しているダイヤモンドですが、需要に応えるために無理な採掘作業が続いているのです。
良質な天然ダイヤモンド1gを採掘するためには1トン以上の土砂を掘り返すことも必要になります。掘り返し作業の際に水脈を破壊してしまい、近隣住民がきれいな水を得られなくなってしまうこともあります。
また、採掘の際にできた穴が埋められることなく放置されて、危険な土地になってしまうというケースも多いようです。工場生産されるラボグロウンダイヤモンドなら、このような環境破壊をする必要がありません

 

天然ダイヤ産出国の環境改善に繋がる

天然ダイヤモンド採掘に関わる人々の労働環境が劣悪であることも、問題視されています。産出国はアフリカなど発展途上国が多く、鉱山では女性や子どもも含む貧しい人たちが多く働いています。そのなかには、両親を失った孤児、家族や親戚に売られて強制的に働かされている子、極度の貧困のため他に働く場所がない子などがいます。満足な食事をとれないまま働き、事故に巻き込まれて亡くなる子も少なくありません。
劣悪な労働環境の下で長時間働いても、支払われる賃金は耳を疑うレベルの金額です。例えばシエラレオネのダイヤモンド鉱山では、ダイヤモンドを発見した分だけ成果報酬が支払われますが、契約で日給15円~60円程度、成果報酬を含まない契約なら日給210円程度となっています。このように、貧しい人々を搾取して採掘している天然ダイヤモンドを購入するよりも、ラボグロウンダイヤモンドにしようという動きがあるのです。

 

紛争や環境問題も解決する可能性がある

天然ダイヤモンドが引き起こす紛争問題も見過ごせません。アンゴラ、コートジボワール、シエラレオネなどの内戦は、ダイヤモンド資源のせいで長引いたと言われています。
なぜなら海外の密輸ダイヤモンドを手に入れたい組織が、反政府勢力に支援を行なったからです。多くの子どもたちや罪なき市民が犠牲になる紛争は、ダイヤモンド資源の価値が下がることによって減少するかもしれません。そのためにラボグロウンダイヤモンドの普及を促進しようという動きもあります。
また、天然ダイヤモンドには、採掘に伴う膨大な電力使用問題、排気ガスの問題などもあります。こうした、従来のダイヤモンドの普及だけでは解決できなかった問題も、ラボグロウンダイヤモンドによって少しずつ改善されていくことを期待できます。

 

大きな可能性を秘めたラボグロウンダイヤモンド

徐々に世界のジュエリー市場で注目されはじめているラボグロウンダイヤモンドには、ダイヤモンドの価値を一新するだけでなく、社会問題を解決する可能性があります。今後、日本でも大きな話題になることが予想されます。